前回の記事では、下水道管路の点検における「スクリーニング調査」の目的と重要性について解説しました。スクリーニング調査は、広範囲の管路の中から異常が疑われる箇所を効率的に見つけ出すための「ふるい分け」です。
しかし、スクリーニング調査で異常が見つかっただけでは、すぐに修繕に取り掛かれるわけではありません。次に必要となるのが、より深く、そして精密な「詳細調査」です。今回は、この詳細調査について詳しく見ていきましょう。
詳細調査の目的と役割
詳細調査は、スクリーニング調査で発見された異常箇所の具体的な状況、損傷の程度、原因、緊急性などを正確に把握することを目的としています。
例えるなら、健康診断(スクリーニング調査)で「要精密検査」の通知が来た人が、さらに専門医(詳細調査)によるCTスキャンや血液検査を受けるようなものです。詳細な情報を得ることで、適切な治療法(修繕方法)を決定し、効率的かつ効果的な対策を立てることが可能になります。
主な詳細調査の方法
詳細調査では、スクリーニング調査よりも高度な技術や機器が用いられます。
1. 高機能TVカメラ調査
スクリーニング調査でもTVカメラは使われますが、詳細調査ではより高解像度で、ズーム機能や焦点調整機能に優れたカメラが使用されます。また、管内の正確な位置情報を記録する機能も備えていることが多いです。これにより、ひび割れの幅や長さ、腐食の深さ、継ぎ目のずれの程度など、細部にわたる損傷の状態を詳細に記録・分析します。
2. 展開広角カメラ調査
これは、管路の内部を360度全周にわたって撮影できる特殊なカメラです。得られた映像を展開することで、あたかも管を縦に切り開いたかのように、管路全体の劣化状況を一度に俯瞰して確認できます。損傷の位置関係や範囲を正確に把握するのに非常に有効です。
3. 管路内部測量・断面測定
管路の変形(例:管のつぶれ)や堆積物の状況を数値で正確に把握するため、レーザー光などを用いて管の内部を測量したり、断面の形状を測定したりします。これにより、管の機能低下の度合いや、構造的な健全性を評価します。
4. 非破壊検査
管路を掘り起こすことなく、内部の健全性を評価する技術です。例えば、以下のような方法があります。
- 衝撃弾性波検査法: 管に衝撃を与え、その際に発生する振動の波形を分析することで、管の厚さや劣化の程度、強度などを推定します。
- 音響調査: 管内に音波を送り込み、その反射波から損傷や空洞の有無を特定します。
5. 地中レーダー探査(GPR: Ground Penetrating Radar)
下水道管路だけでなく、その周辺の地盤状況も詳細に把握するために用いられます。路面下から電磁波を発信し、その反射波を解析することで、地下の空洞や土壌のゆるみ、水の滞留状況などを検出します。道路陥没事故の直接的な原因となる地下空洞の発見に非常に有効です。
6. 目視・打音調査(必要に応じて)
マンホール内部や、管路が地上に露出している部分など、直接アクセス可能な場所では、技術者が目視で確認したり、ハンマーで叩いて音の変化を聞いたりすることで、劣化状況を判断することもあります。
詳細調査のその先に
詳細調査で得られたデータは、専門家によって総合的に解析されます。この結果に基づき、どの箇所を、どのような工法で、いつまでに修繕すべきか、あるいは管路自体を交換すべきかといった具体的な対策が決定されます。
詳細調査は、下水道管路という見えないインフラの「健康診断」における「精密検査」であり、その結果が私たちの安全な生活環境を守るための重要な判断材料となるのです。